Monday, December 31, 2007

第8回ディジタルコンテンツ学研究会のお知らせ

日時  1月12日(土)午前10時から正午まで
場所  秋葉原ダイビル6F 明治大学サテライトキャンパス
ゲスト ドミニク・チェンさん
ホスト 宮下芳明(DC系専任講師)

「情報プロクロニズムとコモンズの臨界点」

情報共有技術の浸透は、多様な情報の相互伝達を人間の認知限界を超える規模で可能にしています。現在、そこで交わされているのは完成形の情報ですが、状況は生成プロセスを含む情報の共有をも包括しようとしています。

存在と表現の境界はどこまで融合しうるのか? 人間の作為から生まれた情報に自律性は宿るのか? こうした問題を抱えながら展開しているプロジェクトを 紹介したいです。

ドミニク・チェン
1981年、東京生まれ。フランス国籍。フランス理系バカロレア取得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA]Design/Media Arts学科卒業(2003.06)。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了 (2006.03)。 NTT InterCommunication Center [ICC] 研究員(2003.11~)、国際大学GLOCOMリサーチ・アソシエート(2005.02~)を経て現在、東京大学博士課程在籍[日本学術振興会特別研究員] (2006.04~)、NPO法人 Creative Commons Japan理事 (2006.03~)。

2007年+2008年の Ars Electronica Digital Community部門 International Advisory Boardを務める(2007年度、www.dotsub.comを推薦,Award of Distinction受賞).。2007年5月NPO法人Art Initiative Tokyo(AIT)の Making Art Differentコースの集中特別講義『New Media and Digital Politics』を開催(2008年5月も講義予定)。2007年12月、東京都写真美術館にて『文学の触覚』展に舞城王太郎との新しいデジタル文学のかたちを提案する作品を出品。

2001年より《InterCommunication》《美術手帖》《ユリイカ》《10+1》《ARTiT》《Tokyo Art Beat Review》など様々な媒体で可塑性のメディア論を執筆するかたわら、ICCのオープン映像アーカイヴ「HIVE」を設計・構築し、クリエイティブ・コモンズの運動にもC−shirtプロジェクト等、前線で参加してきた。現在はアーティスト・遠藤拓己と共にdividualの構築をおこなうと同時に、情報プロクロニズムと創造性概念の再構築に関する研究に従事。

当日は併せて、参加者とのあいだで活発な質疑応答を期待したいと考えています。関連分野に関心のある方は、どなたでもぜひお気軽にご参加ください。

ダイビルは秋葉原駅電気街口前の高層ビル。すぐわかります。直接エレベーターで6階にお越し下さい。

http://www.meiji.ac.jp/akiba_sc/outline/map.html

Sunday, December 23, 2007

写真の1年目へ

12月22日(土)、中京大学アートギャラリー C・スクエアで開催された展覧会「写真0年 沖縄」−名古屋展の最終日、関連シンポジウムに参加するために名古屋に訪れた。この会場は1997年に、私が決定的な衝撃を受けた「日常 中平卓馬の現在」という展覧会のあった場所でもある。中平卓馬の写真がそれまでに見たどの写真にも似ていないことの謎と衝撃から、やがて私は2003年に「中平卓馬 原点復帰−横浜」展をキュレーションするための動機付けの一つを得たことになる。さらにはこの展覧会が、その翌年、那覇市民ギャラリーに巡回されることで、比嘉豊光さんとも出会うことになった。
 シンポジウムではキュレーションに関わる部分で那覇会場との差異についてのことが議論となり、中平卓馬の言説を引きながら、比嘉豊光さんから、私の選択した展示方法が比嘉作品をドキュメントではなくクリエーションのために使用しているという意味の認識が示された。それはそうではないのだが、そういわれると反論がとても難しい重要な指摘だった。
 名古屋在住の、あるいは関西圏や東京からも関心をもつ特に、研究者・批評家・学芸員の方々が来て下さったことがとても嬉しかった。また中平さんの盟友の一人、高梨豊さんが打ち上げにもずっと加わってくれて有り難いことでした。以下に「名古屋展」の序文または「あいさつ」を再掲しておきたいと思います。

はじめに

「写真0年 沖縄」−名古屋展は、去る10月29日から11月4日まで那覇市民ギャラリーで開催された「写真0年 沖縄」展を再構成したものです。三人の出品作家、沖縄・読谷在住の比嘉豊光、東京在住の浜昇と北島敬三は、1970年代の沖縄で出会い、2002年に那覇市民ギャラリーで行われた、沖縄と他地域の写真家による合同展「琉球烈像」への参加を通じて再会します。そのことが、今回の二つの展覧会「写真0年 沖縄」の開催につながっていきました。
先の沖縄会場では、沖縄の「過去と現在」をめぐる三人のドキュメンタリー的あるいは風景的な提示が、緩やかにかつ時おり鋭角的に連関しましたが、今回の名古屋の展覧会でもそのエッセンスが活かされています。さらに今回は、近年の展示では説明を排して圧倒的な量の写真が壁面に貼付される傾向にあった比嘉豊光の連作「島クトゥバで語る戦世」を横一列に並べて、その一枚一枚の肖像には撮影時に語られた各々の言葉を添えています。加えて新たに北島敬三の連作「PORTRAITS」を出品することにより、名古屋展全体の中で、人間を表象すること、あるいは人間の生と死を表象する写真の営みについても考察を深めたいと考えました。北島の連作「PORTRAITS」、また展示作品の一部として閲覧に供される浜昇による新刊写真集『VACANT LAND 1989』は、いずれも直接には沖縄を撮影した写真ではありませんが、そこに内包される問題意識は「写真0年 沖縄」展と深い絆で結ばれたものです。
沖縄はつねに私たちのまなざしを柔和に抱懐すると同時に、厳しく問いただします。その振幅の度合いにおいて沖縄は、比類なき写真の「磁場」でありつづけています。展覧会の準備と実施に関わった時間の中で私たちは、この沖縄という磁場をいつしか拡大しながら、「沖縄の問い」をどの地域の問いとも分割不可能なものとして認識していきました。同時に、沖縄の中の個別的・現実的な場所とそこに生きる人、そこに死んだ人が、決して一般性に解消されることのない単独の場所・人であることの意味を、他ならぬ写真を媒介に今後とも考えていきたいと願っています。

展示構成 倉石信乃

Wednesday, December 19, 2007

『美術手帖』への広告

月曜日に店頭に並んだ『美術手帖』2008年1月号は、松井冬子特集もさることながら、「表3」つまり裏表紙のそのまた裏ページに注目して下さい。来年4月に開講する私たち明治大学大学院・新専攻の広告が掲載されています。デザインは宮下芳明さんです。美術大学からも、少しでも多くの方々が私たちのコースに来て下さることを期待しています。

Wednesday, December 5, 2007

写真0年 沖縄、名古屋へ

12月3日(月)、「写真0年 沖縄」−名古屋展が、中京大学アートギャラリーC・スクエアで始まった。10/30-11/4に開催した那覇市民ギャラリーとはかなり違う構成の展覧会になった。12月2日(日)の展示作業日には行けなかったのだが、展示を担当された北島敬三さんと photographers' galleryの若き精鋭たち、笹岡啓子、王子直紀、大友真志各氏の尽力によって、必ず見応えのあるものになっているはずだ。展覧会の最終日の12月22日(土)には関連イベントが行われ、私もシンポジウムに参加する。そこで展覧会をめぐって続いた長いキャラバンはとりあえず一区切りとなる。以下はそのご案内です。

「写真0年 沖縄」−名古屋展
会場:アートギャラリー C・スクエア
〒466-8666 名古屋市昭和区八事本町101-2 TEL052-835-5669
http://zeronen.jugem.jp/

出品作家:比嘉豊光、浜昇、北島敬三
展示構成:倉石信乃

会 期:2007年12月3日(月)−12月22日(土)
休 館:日曜(但し、12月9日は開館)
開館時間:午前9時−午後5時 入場無料開場:12:30

関連イベント
開催日:2007年12月22日(土) 入場無料
1.映画上映
 上映:13:00〜
 「カメラになった男 写真家中平卓馬」(小原真史監督/2003年/
  2006年初公開/日本/91分) 
2.ビデオ上映
 上映:14:45〜
 「島クトゥバで語る戦世」(2006年/琉球弧を記録する会/60分) 
3.シンポジウム
 開演:16:00〜(終了18:00)
 パネリスト:比嘉豊光(写真家)・浜昇(写真家)・北島敬三(写真家)・
  小原真史(写真評論家・映像作家)・倉石信乃(写真評論家)
 司会:森本悟郎(C・スクエア キュレイター)

月のうさぎが海をわたる

高橋和海さんの写真集「High Tide Wane Moon」が、アメリカ・ポートランドの出版社ナツラエリ・プレスからようやく出版されました。最近、世の中には海の写真が多いのですが、高橋さんは一種の海ブーム以前からずっと、この「極端な」テーマを追っている印象があります。今回の写真集はむしろ「月」の方がテーマで、月に引っ張られて海も加わってきているみたいです。この瀟洒な本にエッセーを寄稿しました。翻訳はJohn Junkermanさんで、翻訳していただいてとても良かった。

Shino Kuraishi, "A Moon Rabbit Runs across the Sea, " in Kazuumi Takahashi, High Tide Wane Moon(Portland: Nazraeli Press, 2007)

http://www.nazraeli.com/nazraeli/frameset.html

どこかで見かけたら手にとってみてください。

Tuesday, December 4, 2007

『遊歩のグラフィスム』書評

12月2日(日)東京新聞朝刊の読書欄に、平出隆著『遊歩のグラフィスム』の書評を書きました。

http://www.tokyo-np.co.jp/book/shohyo/shohyo2007120201.html

平出さんはいまの日本で最も端正なコトバを操る詩人の一人ですが、この本は俳人・歌人の正岡子規、美術家の河原温、小説家の川崎長太郎、ドイツの文芸批評家・思想家のベンヤミンといった東西のジャンルの異なる文章や視覚的な表現を、「遊歩」していく本です。一言では要約しにくいタイプの哲学的なエッセーで、平出さん自身の来し方や日常生活も綴られていて、気軽に手に取れるけれども奥行きが深くなっています。著者が、たんなる相互交流や余興のたぐいとは異なるかたちで、文学と美術の中間領域を押し広げてみようとしているところに、たいへん共感しました。また個人的には子規について少しきちんと読んで考えたくなりました。

シンホジウム終了

12月2日(日)来年4月に開講する、明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻の発足記念シンポジウムが駿河台のアカデミー・ホールで行われた。当日参加してしてくださった方々には、心から御礼を申し上げます。

午前の第1部「安全学系」につづき、私が来年の授業を受け持つディジタルコンテンツ系のシンポジウムは午後の第2部から。前半は岩井俊雄さんのスペシャルトーク&ライヴが行われて、初心者にも簡単に演奏可能という、光と音のシンクロする電子楽器TENORI-ONの実演に触れることができた。TENORI-ONの開発プロセスも説明され、岩井さんらしいインタラクティヴな展示作品からの発展形として、「楽器」という形式に落とし込まれていった経緯が興味深かった。

後半のパネル討論に集った、岩井さん、初音ミクの開発担当者の佐々木渉さん、書道家の武田双雲さん、先進的でありながら明快なソフトの数々を送り出してきた平野友康さん、カリスマ的なゲーム制作者にして「元気ロケッツ」のプロデューサーの水口哲也さん、そしてコンテンツ制作の最先端を切り開きつつあるこれだけのメンバーを集めて、見事にシンポジウムを成功に導いた、第二部オーガナイザーの私たちの若き同僚、明治大学専任講師の宮下芳明さん。きわめて個性的な彼らにはみな、この時代に向けてより多くの人々にメッセージを伝えたいという強い熱意に溢れていたのだが、そうした熱意は、自らがクリエーターとして君臨するではなくて、むしろ多くの人ぴとの創造性を引き出す簡明なソフトやプラットホームを提供していくことにある。そのことが創造性という概念そのものの現在の変質、もしくは新規の成立と結びついているようだった。

とくに平野さんの発表の中に典型的に見られた、大企業の支配するコンピュータ・ソフト業界に対抗する意識の高さ、「心意気」は、いまのディジタルコンテンツを学問領域で考えていく上でも、最低綱領のようなものではないかと思ったもした。

とくに参加者の意欲の高い集まりにはつきものなのだが、クロストークに至る前に時間切れになってしまった。白熱した発言のそれぞれについて、さまざまな感想が切れ切れに浮かんできたのだが、裏方をしていた私ももっと聴きたかった。ぜひ再びそして継続的に、こうしたシンポジウムの場を作り上げられるようにしていきたいし、そうしなければならないだろう。