Wednesday, May 26, 2010

フェリックス・ティオリエ、世田谷美術館

5月22日(土)世田谷美術館で開催中のフェリックス・ティオリエ展を見る。とても充実した写真展。コローを敬愛したティオリエの写真はたしかにバルビゾン派を彷彿とさせる絵画的なもの。一方、特に地方の農業と炭鉱の風景とそこに生きる人々の労働を主題にする点、その描き方にも注目する。明確に郷土誌的な資料制作の企図を持つ。同じ19世紀末から20世紀初頭に首都を中心に撮影したアジェと好対照で、この時代のフランス写真についての認識の地図に改訂を促される。リュミエールの顧客だったので、美しいオートクロームも見られる。

ちなみにこの企画は、かつて机を並べて一緒に仕事をした、元同僚の波多野啓子さん(現・はたのファインアーツ代表)の尽力で、粘り強く遺族と交渉するなどして10数年がかりで実現した。けっして派手とはいえない企画が、個人の情熱の集積に支えられつつ、結実していくのを見るのはうれしいことだ。

http://www.setagayaartmuseum.or.jp/
来年にはオルセーで回顧展が予定されているという。図録・広報・会場の文字まわりのデザインは近藤一弥さんで、ティオリエを理解するための見事な助けになっている。