Tuesday, March 20, 2012

歩行曲線の曲率


「荒木経惟の写真の思想のうち、いちばん重要なのは、かれが実現している〈風俗〉は、外から時代的にくるのでもなく、また内から好みのままにくるのでもなく、かれの歩行の始まりから終りにわたる曲線のどこかで出あう特異点と、その近傍のようなものだということだとおもう。そしてこの歩行曲線の曲率をきめているのは、いつも乳幼児のときの〈母〉だし、それが街筋の百数十年の歩行と、ふと街の辻や、アパートの日溜りのところで、かれの生涯の夢の傷と出あったとき、彼の〈風俗〉が出現するのだ。」(吉本隆明)