Friday, August 14, 2015

展評 「事物—1970年代の日本の写真と美術を考えるキーワード」 

東京国立近代美術館で開催中の「事物—1970年代の日本の写真と美術を考えるキーワード」展についてレビューを書きました。pdfでも読むことができます。

「あるエポケーについて」、『現代の眼』(東京国立近代美術館ニュース)613号(2015年8月-9月号)、2015年8月、10-11頁。
http://www.momat.go.jp/ge/publications/newsletter/

レビューでは触れられなかったことを以下に書いておきます。
・高梨豊作品「町」について、手許で一挙に見ることの出来ないしかも裁ち落としの巨大な写真集と、一挙に把握しやすいブックマットと額に収容されたプリントでは、「意味」が異なる。加えて、写真雑誌に掲載された初出時のイメージもまた、それらとは異同がある。このことは一般に、展覧会で提示される写真を歴史的に考察・評価する際に看過すべきでない課題。

・同様のことだが、アジェやエヴァンズの1970年代までの「作品」が、概ね写真雑誌に掲載されたイメージや少なくとも印刷物を元に同定され、言説化されてきたことに留意すべき。それらの多くはコントラストが強く、中間的な階調が消える傾向にあり、「オリジナル」のプリントとは明らかに異なる。さらに、事物展に展示されていたアジェのプリントは、アボットによってアメリカに移入されたものを原資とする「モダン・プリント」であり、いわゆるヴィンテージとも異なる。こうした変数を勘定に入れて、例えば中平卓馬やの大辻清司のテクストを再考することも必要になる。

事物展は9月13日(日)まで。
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/things2015/