表現の自由を制約する国旗損壊罪の新設に反対します
2026 年 7 月 9 日
現在開かれている国会に、国旗損壊罪を新設する「国旗の損壊等の処罰に関する法律案」が、自由民主党・日本維新の会・国民民主党・参政党の議員の共同により提出されました。当該法案の目的は「国旗を大切に思う国民感情」を保護することにあると説明されており、「国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物」を、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」によって自ら「公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損」する行為に対し、外国国章損壊罪と同様の「2 年以下の拘禁刑又は 20 万円以下の罰金」を科すものとしています。
法律の専門家などからも、これまでも同様の事案については、刑法に規定する器物損壊罪によって処罰が可能であり、そもそも新たに刑罰を科すべき立法事実がない上、国民感情という曖昧な保護法益を掲げている点から、立法の必要性自体に疑問が出されています。また、処罰の対象となる構成要件も不明瞭であり、対象となる行為とそうでない行為の境界についての判断が恣意的になる恐れも否定できません。新法案は、国旗損壊の目的は問わず、外形的・客観的に判断するものとしており、いったん法制化されれば、創作の意図はどうあれ、国旗を利用した表現には事実上の制約が加わり、表現活動の委縮が懸念されます。これまでも国旗は、視覚的または造形的な芸術表現において重要な題材とされてきました。絵画はもちろんのこと、写真や映像にも取り上げられており、インスタレーションやパフォーマンスのような現代美術作品においても度々用いられています。創作物は処罰の対象外とも報じられていますが、芸術表現と他の思想的または政治的な表現を峻別することは困難です。国旗損壊罪の制定後に対象が拡大する懸念も拭えません。象徴的な罰則がもたらす表現活動の委縮効果は大きく、国旗を使った表現が忌避され、国家に批判的な表現が排除される風潮も広がりえます。美術館等に収蔵されている過去の作品についても、展覧会等への出品の自主規制が強まり、鑑賞者の権利が制限される恐れがあります。
市民一人ひとりの国旗に対する考え方は様々であり、思想及び良心の自由は保障されるべきです。個人が芸術表現はもとより、自己の思想を表明し、政治的な主張を公共空間で自由に行えるようにすることは、民主主義社会の根本原則に関わることであり、プライバシー保護など公共の福祉に反しない限り、「表現の自由」は守られなければなりません。本連盟は、美術評論を推進する中で、表現と思想の自由を守ることを団体の目的としており、日本においてこのような動きがあることを深く憂慮します。芸術の表現と鑑賞をめぐる自由を守り、発展させるためにも、日本社会における「表現の自由」の制約につながる国旗損壊罪の新設に反対します。
美術評論家連盟有志
ダニエル・アビー、天野一夫、天野太郎、アライ=ヒロユキ、市原研太郎、大倉宏、岡部あおみ、小川敦生、沖啓介、尾崎信一郎、笠原美智子、川上幸之介、木村絵理子、吉良智子、きりとりめでる、久後香純、倉石信乃、暮沢剛巳、小勝禮子、沢山遼、四方幸子、武居利史、竹内万里子、竹山博彦、土屋誠一、徳山由香、中村史子、成相肇、能勢陽子、半田颯哉、藤田一人、古川美佳、穂積利明、堀元彰、アンドリュー・マークル、牧陽一、松浦寿夫、村田真、藪前知子(50 音順) 他 9 名(合計 48 名) 7 月 10 日追記 五十嵐太郎、岡村恵子、gnck




